戦後知識人の系譜

戦後知識人の系譜 (発言者双書)

戦後知識人の系譜 (発言者双書)

高澤秀次柄谷行人のインタヴュワー(『文學界』2001年1月号・2月号では鎌田哲哉と共にロング・インタヴューを行っている)や対談相手をつとめ、熊野大学の常連でもあるので批評空間グループの近傍にのみ位置しているとつい思い做していたのだが、それ以前から高澤氏は『発言者』や『表現者』といった西部邁の主宰する雑誌にコミットしていたのであり、この『戦後知識人の系譜』も『発言者』に同名タイトルで連載したものに、『諸君!』と『正論』で発表した「同じ線に沿った」四本の論稿を合せ纏めたものであり、戦後民主主義・進歩派及び全共闘世代批判を意外にも攻撃的な筆致で綴っているのである。「正真正銘の馬鹿集団である全共闘世代吉本派」なんていう言辞を弄して。意外と感じたのは2003年に刊行された『戦後日本の論点山本七平の見た日本』を読んだ時の印象が誠実で粘り強いというものであり、福田和也が『イデオロギーズ』の冒頭で紹介しているエピソードでの高澤氏が温和そうに描かれていたためであった。おそらくどこかの時点で文体に変化が生じたのであろう。高澤氏が柄谷行人西部邁という左右の論客に、同時に同伴していることには一点の齟齬もなく、『批評空間』Ⅱ-16の共同討議「伝統・国家・資本主義 保守主義の理路を問う」には西部邁が参加しており、そもそも西部邁柄谷行人は六〇年安保闘争以来の旧知の中でもあるらしく、良質な左派と右派が本質的に重なり合い、近接した認識を保持しているという事を端的に示しているのである。そのことは中野重治保田與重郎が互いに強く意識し合っていたという絓秀実『1968年』での指摘もあり、本書の高澤氏もまた数々の戦後知識人を論じる中で花田清輝福田恆存を殊に高く評価しているように見受けられる事からもそれは示されているのである。本書で特に印象に残るのは、吉本隆明に対する軽蔑と見紛う激越な批判であり、実際本書184頁で「吉本隆明に、ことあるごとに難癖をつけている」と自覚的に記しているのだが、その高澤氏が今年2007年に『吉本隆明 1945―2007』という書を上梓してしまうことからみて、やはりこの批評家は生来の篤実さの持ち主なのである。私はまだこの書を読んでいないのだが、『週刊ポスト』の書評で採り上げた、吉本隆明との対談本を持つ大塚英志の評言によれば、期待に違わず吉本隆明に真摯に向き合った力作評論であるという。


追記:『週刊ポスト』12月14日号に川村湊が『吉本隆明 1945―2007』の書評「詩人として解析することで混乱を突破する」を書いている。同じ本の新刊書評を同じ雑誌で二回も載せるものなのか。しかも川村湊坪内祐三の『靖国』に無意味なケチつけたり、法政大学国際文化学部の偽公募で小谷野敦を騙くらかしたり、福田和也に馬鹿にされたりしている人だから、心証は悪い。(ちなみに同じ「ポスト・ブック・レビュー」内でも大塚は「この人に訊け!」に、川村は「味わい本発見 この分野はこれを読め!」に書評を書いている)。