桶谷秀昭『昭和精神史』『昭和精神史 戦後篇』

 これは一つの回想形式である。「論」といふ漢語の含意する、あらそひ、あげつらひを意図しない。
 この回想はすべて、日本文化の窮極の継承者でありつつ、近代日本文明の国家形態に強ひられた至尊の矛盾と苦悩にたいする鎮魂に捧げられる。
 ここにいふ至尊とは、側近に英国風自由主義の日本的受容形態を身につけた重臣、大臣、大伴、佐伯の古代大和朝廷以来のいくさつかさ末裔まつえいたる統帥権下の幕僚から、浪曼的あるいは農本的国風の保守者、革新者、さらに「天皇制」排斥をいふマルクス主義者、ときに雷同し、ときに絶対の従順において、極東の自然民族の神秘を暗示する大衆的存在にいたるまでを包含する、現代日本のあらゆる観念的具現にそれぞれその処を得せしめ、その上に塔を築くモニュメンタアルの意思に強ひられた存在のことである。