光文社文庫版『神聖喜劇』カヴァーデザイン

神聖喜劇〈第1巻〉 (光文社文庫)「燈台(黄)」2001
神聖喜劇〈第2巻〉 (光文社文庫)「薬瓶・夕」1998
神聖喜劇 (第3巻) (光文社文庫)静物(眼鏡、手帖)」1992
神聖喜劇〈第4巻〉 (光文社文庫)「青い瓶」1991
神聖喜劇 (第5巻) (光文社文庫)「燈台(暗)」2001


2002年7月から11月にかけて各月20日初版1刷発行で刊行された光文社文庫版『神聖喜劇』の装幀は、カバー装画を林哲夫、カバーデザインを間村俊一が担当している。
第五巻の解説を執筆した坪内祐三は『週刊文春』2002年8月1日号所載の「文庫本を狙え!(269)」*1で第一巻を採りあげ、装幀について記している。

 だから今回の文庫化は一層嬉しい。光文社文庫というのが、元の居場所に戻った感じだし、それに今回の光文社文庫版、装丁、紙質共に素晴らしい。上質の重厚感がただよっている(その「上質の重厚感」は『神聖喜劇』にふさわしい)。

坪内祐三はさらに『おすすめ文庫王国 2002年度版』所載の「年刊文庫番 私が今年出会った文庫本あれこれ」でも装幀について記している。

もっと客観性を持たせた私の今年の文庫本のベストは光文社文庫大西巨人神聖喜劇』全五巻だ。
 もともと光文社から刊行されていた本だから、この大長篇小説は、文春文庫(一九八二年)、ちくま文庫(一九九二年)を経て、一番収まるべき所に戻ったという感じがする。しかも装丁、表紙絵、紙質、つまりその造本のすべてが素晴らしい。何て念入りに作られた文庫本なのだろう。

また、大西巨人は「「光文社文庫」版奥書き」*2で装幀について記している。

 林哲夫画伯の画業五点は、もと『神聖喜劇』とは独立の制作であるが、その立派な五点を、間村俊一氏が、ほどよく按排あんばいして、秀抜のカヴァーデザインを作成せられたことは、私の大きな喜びである。

 二〇〇二年晩秋

文春文庫版装幀は竹内和重、ちくま文庫版装幀は平野甲賀が担当しているが、坪内祐三の言う通り、光文社文庫版の装幀は、「不朽不滅の世界的革命文学」*3である『神聖喜劇』に相応しい。大西巨人が「「文春文庫」版奥書き」「「ちくま文庫」版奥書き」では言及しなかった装幀について、「「光文社文庫」版奥書き」で言及したのは、我が意を得たと感じたからであろう。この相応しさをもたらしているのは林哲夫の装画および独特なカバー用紙である。
『季刊d/SIGN』no.6所載の鎌田哲哉「卑小なものと崇高なもの──『神聖喜劇』における描写の問題(序)」は400字詰め原稿用紙約14枚の評論であり、タイトルに「(序)」とあり文末に「(続く)」とあるものの、続篇は発表されていない。この『季刊d/SIGN』no.6には間村俊一のエッセイ「ブックデザインの現場から➍紙──馬糞紙とモンブラン*4が掲載されており、光文社文庫版『神聖喜劇』の装幀について記している。

 もうひとつ最近頻繁に使用するのがケナフであるが、光文社文庫神聖喜劇』のカバーに林哲夫氏のモランディ風な油彩画を印刷する際、一番しっくりと再現され、文句なしに決定した。
 文庫本にはめずらしく、カバーにも特殊紙を使用してよいというありがたい申し出にあれこれ悩んでいるうち、林氏らが発行している『sumus』という同人誌のことを思い出した。この本文紙にケナフが使用されている。これも何かの縁と思い、ケナフを加えて何種類かの特殊紙に刷ってみると、まず何ともいえず手触りがよい。少し沈み気味に再現された分、クラシックな雰囲気も加わって、文庫のカバーとしてはユニークな仕上がりになった。引き続き今年から刊行が始まった同文庫の『江戸川乱歩全集』にも使用している。

このエッセイから、「間村俊一氏が、ほどよく按排」した「上質の重厚感がただよ」う用紙がケナフ紙であることを教えられる。

*1:坪内祐三『文庫本福袋』収録

*2:光文社文庫版『神聖喜劇』第五巻

*3:http://www.shiso-undo.jp/paper/mokuji/934mkj.pdf

*4:『季刊d/SIGN』no.6(2004年1月26日第1刷発行)