地域紛争だな、『インテリ大戦争』は

『インテリ大戦争』は文筆家としての最初期に「若者向きの雑誌」に執筆された評論やエッセイを纏めたもので、呉にとっては「出発点」となる作品である(刊行順で云えば書き下ろしの『封建主義、その論理と情熱』が三ヶ月早い処女作)。そのためPART Iでは論理展開や文章に拙さが垣間見え、そして批判対象がどうでもいい過去の人が多いために、「趣味としての摘発」以外は面白くない。PART IIは既に完成された芸文であるため、中々楽しめる。
全共闘の恥部」中の51頁には「私、呉智英全共闘世代です。津村と同じ某大の別学部の全共闘です。ヘータイの位で言えば、やっと大尉です、陸士卒[セクト]じゃなかったから。津村は、血筋のせいか、少将といった見当でした。私は、大尉といっても、前大戦でテガラたててましたから(初年兵で新聞五段抜き写真)扱いは佐官級でした。それで、某学部のスト決議学生大会の主演説もやっております。私はこう演説した。「『自己否定』とは『自己肯定』のことである。出世のためということで学問すればするほど学問の本義から遠ざかっている自分を発見する。それが自己否定である。自己否定は目指してするものではない。自己肯定の結果、現出するものだ。それはあたかも、徹底した防火が実現すれば失業するのに、防火に力を尽くす消防夫のようなものである」。当時、マスコミが自己否定をどのように解していようとも、私はこのように考えていたし、演説した。そして、少なくとも、某大学某学部の学生大会では支持されたのだ」とある。呉が学生運動に関わり、運悪く検挙され、有罪判決を受けたことは知っていたが、学生運動での具体的な役割については多くを語っていないように思われるので、この証言は珍しいんじゃないか。

洋泉社版『インテリ大戦争』(発行日―1995年2月1日)の目次 

序・知の戦闘宣言


PART I

悪書槍玉

悪書以前―竹村健一「分裂思考で行動しよう」

代々木の森の蝙蝠は―石子順「日本漫画史(上・下)」

バチあたりな粗雑さ―桐山靖雄「守護霊を持て」

三流の論理―倉前盛通「悪の論理」

いいことづくめ―五木寛之戒厳令の夜(上・下)」

明治から疑え―清水幾太郎「戦後を疑う」

教養スノッブ朝日新聞論説委員室編「天声人語

現代ヤミ市山本七平岸田秀「日本人と『日本病』について」

エスがわからない―山本七平「『あたりまえ』の研究」

エホン読みの原典知らず―渡部昇一「日本そして日本人」

全共闘の恥部―津村喬全共闘―持続と転形」

脆弱思想を考える―日高六郎「戦後思想を考える」

(〈初出〉『宝島』'80年4月号〜'81年3月号)

〔附記〕


世界観の代用品としての心理学宮城音弥岸田秀 批判

歴史物ブームにひそむ罠司馬遼太郎樋口清之 批判

本物の知性が歴史ブームを批判する
セビロを着た空海
樋口の"合理主義的解釈"

〔附記〕

(〈初出〉『宝島』'80年3月)


趣味としての摘発―誤記、誤字、誤植をあげつらう

もう一つの読書の喜び
我が実践の数々
歴史的考察

(初出『宝島』'79年3月)


論争への招待野野間宏津村喬 批判

1 忘れていたことが逆襲してくる

近代思想と宗教
御都合主義的な知識人

2 一歩後退、二歩後退

正統性へのあこがれ
近代思想へのこじつけ

3 行きづまり思想の彌縫策

宗教は開放されなければならない?
親鸞の方法は、歌声運動?

4 野間宏の負債を受け継ぐ脳天気

全共闘という世代
同世代の人間として

5 民衆史観というオダイモク

民衆が主役ではない民衆演芸
「民衆が歴史の主役」とは?
津村的「民衆史」

6 津村喬の"アジア的視点"

曲芸まがいのアジア論
悲しいまでの楽天

7 津村喬の論理能力

識字力・読解力もない津村
内容ぬきの非論理的論理

8 「上原専禄論」の醜態

上原専禄―死者との共闘者
民主主義を超える思想

9 論争の臨戦態勢依然維持!

旧型左翼・稲葉三千男の論理
稲葉よりダメな津村喬の論理
津村理論の優越性?
マンガ表現の規制

(〈初出〉『ジャーナリスト』'80年9月号〜'81年7月号)


激突対論 渦巻竜二郎vs呉智英 空飛ぶ円盤は存在するか? 閑話休題・幕間狂言

空飛ぶ円盤はアル 渦巻竜二郎

空飛ぶ円盤はナイ 呉智英

(〈初出〉『ガロ』'76年1月)


PART II

知恵のひかり 名著の教え みちびきの星

史記

名著の著者

名著の解釈

読後対談司馬遷をめぐって インテリ代表 呉智英 大衆代表 南伸坊

インテリにとって大学とは
テロリズムの美学
勝者・敗者

無知を嗤う古笑話選

(〈初出〉『宝島』'77年1月)


世説新語(竹林七賢人)」

竹林七賢銘々伝

阮籍

嵆康

王戎

五石散

家柄を重視すべし

(〈初出〉『宝島』'77年2月)


論語

孔子人と思想

孔子に関する古笑話選

この話はノンフィクションであり、実在の団体・人物に関係があります

の心

(〈初出〉『宝島』'77年3月)


荘子

名著との出会い

荘子の寓話

逍遙遊この話はノンフィクションであり、実在の団体・人物に関係があります

道士を嗤う古笑話選

(〈初出〉『宝島』'77年4月)


インテリ読本

1

言葉の一知全解 もっと光を!

大論理学 処女の科学

しみじみ随筆

(〈初出〉『宝島』'77年6月)


2

言葉の一知全解 時は金なり

大論理学 容貌の美醜

三島由紀夫金閣寺」小論

(〈初出〉『宝島』'77年7月)


3

言葉の一知全解 音楽の冨を奪取する

大論理学 ルーツの構造

ソラリス

(〈初出〉『宝島』'77年8月)


4

言葉の一知全解 山ゆく自己

古代への情熱

小論理学 神の実在の証明

(〈初出〉『宝島』'77年9月)


5

言葉の一知全解 貞女よ よみがえれ

仏教講話

小論理学 古人の論理

(〈初出〉『宝島』'77年10月)


6

言葉の一知全解 知性の反乱

方言にとって美とは何やろ

小論理学 常識という詭弁

(〈初出〉『宝島』'77年11月)


7

言葉の一知全解 近頃の若い者

信仰告白

第一誓 宗教

第二誓 教会

第三誓 宗教者会議

第四誓 平和

第五誓 科学

第六誓 経済

第七誓 世の終り

第八誓 祝祭日

第九誓 神聖十字軍

第十誓 殉教

小論理学 不確定性原理

(〈初出〉『宝島』'77年12月)


洋泉社版へのあとがき