ギルバート・ケイス・チェスタトン(Gilbert Keith Chesterton)「異端者(Heretics)」

その昔、異端者は、異端者ではないということを誇りにしていた。かれにとって異端者とは、裁判官であり、警察であり、地上のもろもろの王国であった。かれは正統派であった。かれは、かれらにたいして対立することになんの誇りをも感じていなかった。かれらこそ、かれにたいして対立していたのである。残酷な無敵の軍隊も、冷淡な顔つきをした王たちも、国家の繁文縟礼も、法律上の正当な手つづきも、ことごとく、羊のように、路をふみあやまっていた。かれは正統派であった。そして、自分はまちがっていないということに誇りをもっていた。もしもかれが、さびしい荒野に、たった一人で立っていたにしても、かれは一人の人間以上のものであった。かれは教会であった。かれは宇宙の中心であった。星のむれは、かれをとりまいてめぐっていた。したがって、あらゆる地獄の責苦をもってしても、かれが異端者だということを、どうしてもかれにみとめさせるわけにはいかなかったのである。

昔は、異端者は異端者でないことを誇りとしていた。世俗の王国、警察、判事こそ異端で、自分は正統だった。そういうものに反逆して得意になっていたのではない、そちらが彼に反逆していたのである。残酷無残な保護を加える軍隊、冷酷非情なおもてを向ける国王、うわべだけそつのない国家、筋だけ通っている法律──皆迷える羊で、彼みずからは正統たることを誇り、正しいことを誇っていた。さびしき荒野にただひとり立っていたにせよ、彼は人間以上のものだった。教会だった。彼は宇宙の中心、彼をめぐって星は動いていた。忘却の地獄の淵からとり出したありとあらゆる責苦をもってしても、彼に自分は異端であると認めさせることはできなかった。

In former days the heretic was proud of not being a heretic. It was the kingdoms of the world and the police and the judges who were heretics. He was orthodox. He had no pride in having rebelled against them; they had rebelled against him. The armies with their cruel security, the kings with their cold faces, the decorous processes of State, the reasonable processes of law―all these like sheep had gone astray. The man was proud of being orthodox, was proud of being right. If he stood alone in a howling wilderness he was more than a man; he was a church. He was the centre of the universe; it was round him that the stars swung. All the tortures torn out of forgotten hells could not make him admit that he was heretical.