絓秀実は『重力02』掲載「六八年を知るためのブックガイド130」の「NO.22 『望郷と海』石原吉郎」(p.173)を執筆している。
68年のスターリン批判というモチベーションは、シベリア抑留体験者の再評価を促し、三波春夫から内村剛介にいたる存在に着目したが、そのなかでも本書は、「ホモ・サケル」(アガンベン)ともいうべき人間の裸形を静謐に記述して衝撃を与えた。なお、本書と相即的に読まれるべきものに、セリーヌ的文体によって記述された、沢清兵『褪色─異邦のコムニスト』(71年)を挙げておく。(S)
内村剛介の解説によれば「『褪色』ははじめ一九六四年二月── 一九六六年一二月の『試行』誌に掲載されたものである。こんど一本にまとめるに当って終章が書き足された」という。*1
著者の
著者はレーニンによる偉大なロシヤ革命がスターリン、ベリヤ、アブクーモフ、リューミンらによって頽落させられたという観点で記述しており、スターリンらへの呪詛や罵倒を執拗に記す一方、コムニストとしての立場を固守している。
空 白
人 生 の 空 白
何 も か も 無 色 の 世 界 だ
・ ・ ・ ・
─君は、政治犯だ、政治犯に減刑は適用されない。
─なに! 減刑だと!?
減刑など要求した覚えはない!
─俺は減刑を願っていままで再審を要求していない。即時釈放だ! 理由? 簡単なことだ──無罪!
へっへっへっ、こうなりゃどちみち、俺達貧乏人の世の中なんて来っこなしさ、早くノルマの黒パンでも嚙ってよ、くたばって、それでおしめえさ──
白い手首よ!
お前らは人生ではない!
そう!
人生のかけらでもないのだ!
いいか!
ほんとうの人生とは──
この何だかわからない
きまぐれの気狂いめを──
息の根のとまる程の烈しさで──
ぶちのめしてやることさ! ──
一発ぶちかましてやろうぜ!
おまえたちの!
そしてこのおれの!
生という残虐な野郎に──
そうだ!
一ぱつどかんとぶちかましてやろうか!
やろうぜ! レビヤータ(仲間)!
死ぬか生きるかだ!
人生に、それより他のものぁ──
何一つありゃしねえ! ──
コルホーズ!
コルホーズ!
それはお上品なサロン・マルクシスト達、また、スターリン官僚の亡霊共が、かつて夢にも考えなかった、革命の新しき素材としていま、この地球上に存在する。
目次
Ⅰ章 暗黒
Ⅱ章 スターリンの死
Ⅲ章 ストリイピン
Ⅳ章 アレキサンドル監獄
Ⅴ章 ハバロフスク──日本人ラーゲリ
Ⅵ章 コルホーズ──ソビエト底辺
終章 「クーリト・リーチノスチ」
P・S
解説 内村剛三/こととことばのはざまに
奥付
褪色──異邦のコムニスト──奥付 沢 清兵著 現代思潮社刊
一九七一年一月二五日初版 八五〇円 南保印刷所本文印刷
形成社印刷株式会社装本印刷 今泉誠文社製本
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