②『メタクリティーク』

  • 絓秀実『メタクリティーク』(国文社、昭和58年12月15日初版第Ⅰ刷発行)

Ⅰ メタクリティー
エディプスたちの言説──「同時代の文学」のための政治学*1

  • 惰性的な反復
  • 「家」という閉域
  • 父を模倣する子供

ラディカリズムの廃墟──文学のプロレス化のために*2

  • 度を越えた見世物
  • 文学という不毛な環境
  • 言葉という過激な肉体

「歴史」と批評*3

  • もう一つの「歴史」
  • 「どこへ」も行かない物語
  • 方向の断層


Ⅱ 中上健次の記号
ナルシスの「言葉」*4

  • 不整合な「自然」
  • 神話と完結しえない物語
  • エコーを聴く男たち

「母」の力──『鳳仙花』を読む*5

偶数と奇数──千年の愉楽』を読む*6


Ⅲ テクストのねじれ
家=系の破壊──小島信夫*7

  • 物語としての「家」
  • 名前と交換

いろはにほへと──深沢七郎「みちのくの人形たち」を読む*8

  • 平仮名と漢字
  • 言葉とねじれ
  • 文字を書く不在の手

不可能な説話者──田中小実昌『ポロポロ』を読む*9

  • 二人の読み手
  • 屈折率の悪戯
  • 負の絶対者の言葉

夕暮のアームチェア・ディテクティヴ──唐十郎『佐川君からの手紙』を読む*10

  • ジョン・シルバーへの変貌
  • 二都物語の構造
  • 誤解と正解

倫理・教育・物語──尾辻克彦*11


Ⅳ 書物の消滅
私小説」をこえて──小林秀雄安岡章太郎*12

  • 偏差としての「私」
  • 私小説論」の逆理
  • 読むことの幻想性

折り返された「未来」*13

  • 「生」という緩慢な自殺
  • 「政治」という特権領域
  • 名前の多様と欠如

差異の消滅──あるいは神話としての「暴力」*14

悲惨さの方へ──書くこと、そして読むこと、あるいは批評のためのメモ、ではなく······*15

  • 書物の方へ、ではなく······
  • 始源の方へ、ではなく······


あとがき
初出一覧

  • 起源なき神話、としての物語、という自己完結性、を逸脱する非=物語、としての小説。
  • 物語は、過去に自足する。神話は、起源が現在を無媒介に侵犯する。小説は、言葉が現在を無媒介に侵犯する。
  • 物語が反復され、終りなき反復によって「言葉自身の神話性」が物語を逸脱し、「言葉自身の神話性」が現在を無媒介に侵犯し揺るがす。
  • 小説は、起源を持たない(神話ではない)、完結性を持たない(物語ではない)。
  • 「みちのくの人形たち」という作品は、書くことについてのメタファーではなく、書くこと自体である。「もじずり」が書くことのメタファーなのではなく、「もじずり」の変転自体が「もじつづり」(=書くこと)そのものであった。「もじずり」は書くことという主題を作者が表象=代行(表現)しているのではなく、表象=代行の間隙からの書くことという現前である。言葉は内面を表現する媒体ではありえない。しかし内面を表現する媒体として現れてしまい、内面を表現する媒体として捉えられた言葉からは物質性が失われる。言葉の物質性は内面━外面(有限━無限/夢━現実)という二項図式を破棄する。内面━外面の間隙に常に既にある物質。有限の言葉と有限の言葉の組み合わせによる無限という矛盾(有限は無限に至り、無限は有限に還える)を生きること書くことの物質性。醒めることの出来ない夢という誤謬を生きること書くことの現実性=物質性。ここでは夢≠現実ではなく、夢=現実であるほかない。


『メタクリティーク』書評

  • 渡部直己「絓秀実の批評には、いわば正常ならざるもの﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅へむけての、どこか癒しがたい反転の嗜慾が執拗にたちさわいでいる。本書は、具体的に読みえぬものをことごとく回避することに、得がたい際立ちを示すのである。大勢を尻目に、ひたすら〈いま・ここ〉に在る言葉に反応しようとする。」(「海」1984年3月号)
  • 渡部直己「「正しい言説」としての批評を問う」(「朝日ジャーナル1984年3月9日号)
  • 川村湊「〈三本足の批評〉が紡ぐ奇怪な夢 畸形の身体を肯定する批評へのメタクリティークな立場」(「(日本読書新聞1984年3月5日号)

*1:『文藝』一九八二年二月

*2:『流動』一九八〇年九月

*3:現代詩手帖』一九七九年四月

*4:『群像』一九七九年四月

*5:現代思想』一九八〇年一二月

*6:週刊読書人』一九八二年九月二〇日

*7:『群像』一九八三年八月

*8:『群像』一九八二年五月

*9:『カイエ』一九七九年一〇月

*10:『文藝』一九八三年四月

*11:『杼』創刊号、一九八三年五月 『ガリバーの虫めがね──尾辻克彦の研究読本』、一九八三年八月

*12:『作品』一九八一年三月

*13:『すぼる』一九八三年七月

*14:現代詩手帖』一九八三年七月

*15:『現代批評』四号、一九七九年一二月