福田和也による島弘之潰し

「文壇アウトローズの世相放談「これでいいのだ!」」VOL.496「大事な人が逝ってしまったので正月号なのに、まだ追悼中······」(『SPA!』2013年1月1・8日号)から。

坪内 文芸評論家で法政大学教授の島弘之も亡くなったね(享年56)。島さんがかわいそうなのは、新聞に訃報が出なかっただけじゃなくて、夏休みが終わったのに大学に出てこないから自宅に行ってみたら、孤独死してたんだって。
福田 それはキツいなあ。かわいそうだったんだよ、彼は。
坪内 福田さんが潰したんだよ。
福田 そんなことないよ。
坪内 オレの中ではそういう認識。どういう人か、まず説明します。島弘之って’56年生まれで、’86年に『カバラーと批評』というのを翻訳して国書刊行会から出したんだよ。これはイエール大学の〝脱構築四天王〟の一人といわれたハロルド・ブルームの翻訳なの。
福田 そう、あの人、ハロルド・ブルーム読んでたからね。
坪内 それで、同じ’86年に柄谷行人論を書いて群像新人文学賞を獲ってワッと注目されて、数年のうちに単行本も3冊出したわけ。しかも彼は文学プロパーなのにロックにも詳しくて、タイトルをニール・ヤングの歌詞から取ったりしたんだよ。年配の文芸評論家はそういうのを知らないから「すごい」と。そうしたときに、’95年ぐらいかなあ、『新潮』で若手批評家の大座談会があったわけ。そこで福田さんは島さんに狙いをつけたんだよ。オレは一読者だったけど、島さんがロックの話をすると、福田さんが叩き潰すんだよ。それによって島さんは消えていったね。
福田 ······。

坪内祐三のいう「95年ぐらいかなあ、『新潮』で若手批評家の大座談会」とは『新潮』1995年2月号掲載の島弘之富岡幸一郎福田和也大杉重男「新鋭作家9人の可能性」に違いない。この座談会は『皆殺し文芸批評 かくも厳かな文壇バトル・ロイヤル』(四谷ラウンド)に収録されているが、「島さんがロックの話をすると、福田さんが叩き潰す」というような条は見当たらない。『皆殺し文芸批評』収録の他の座談会では富岡幸一郎福田和也から狙いをつけられている様子である。