- 亀和田武✕坪内祐三『倶楽部亀坪』、扶桑社、二〇〇九年七月三十日初版第一刷発行
初出 『en-taxi』Vol.8-19(小社刊)
構成 皆川秀(一~三回)、仲本有希子(四~十二回)、橋本倫史(プロローグ、エピローグ)
撮影 石川徹(下記以外)、松山泰三(四回)、砂守勝巳(六回)
装幀 藤川コウ(サエラ)
プロローグ 新宿篇 雨降る街角に新宿の古層が溶け出して*1
- 新宿の喫茶店史をめぐり、私設図書館を夢想する
- 紀伊國屋地下の謎、「
ニュー ながい」- 黒人、ルーマニア人、都電通りの向うに世界が広がる
- 「DUG」に在りし日の教養主義を思い出して
- トロリーバスが放電しながら、伊勢丹の角を曲がっていった
- 山下達郎は塀を乗り越えて新宿御苑に入っていった
第一回 ロックンロール篇 復活と持続と洗練をめぐる二、三を語る*2
- 雨の京橋、『ライトニング・イン・ア・ボトル』。ブルース百年。神保町まで地下鉄に乗って······
- 小野瀬雅生ショウ@「初台Doors」に駆けつけたあと、寿司屋の座敷で一心地
- ブルース百年。持続することへの敬意。ワサビ入りカンピョウ巻きをつまみつつ
第二回 渋谷篇 渋谷の記憶を発酵させれば、暗渠の底に実は萌えるか*3
- 揺れる大歩道橋を越えて、桜丘町、渋谷の負面へ侵入。〈新しい風景〉の名残りが今まさに滅する時だった
- センター街入り口界隈で潜る。冷風に焼酎で身を温め、マガイモノの愉楽を思い出す
- ファイヤー通りから宇田川町。バブルと新興宗教とプレイボーイの残滓を合わせ鏡にして辿る
- 丘を登れば、そこは松濤。夕暮れに霞む豪邸に三島、乱歩のまぼろしを透かす
第三回 中央線沿線篇 中央線沿線=魔境説の次第を測れば*4
- 吉祥寺南口をガード下へ。関東バスを肩でよけてハモニカ横丁に潜ると雨が降ってきた
- 午後の半端な時間を使って高田渡との出会いを思い出すため「いせや」を避け蕎麦屋に上がる
- 「中央線=魔境」説のつくられた幻影を改めて東京住民の目に晒してみれば
- 阿佐ヶ谷文士、『ガロ』、山口瞳、小島信夫······。視線は中野から中央線を越えて、小田原、真鶴まで
第四回 大阪篇 近くて遠い大阪街区の粒立つ風景を洗う風*5
- 中之島界隈を流してアクアライナーに乗船。川から見る岸の低さに嬉しさが妙に募ってくる
- 大阪ドームでなぜ?の巨人✕ヤクルト戦見物。手の込んだ「辺境」作りこそ、亀坪の「魔」
- なんばグランド花月の客席に潜り込んで、舞台と周囲の熱気をせっせと測ったあとで
- そして道頓堀川沿いの喫茶店へ。地図を広げて、現状確認。二人は時間を刻んで組み立て確かめておくものを確かめる
第五回 大井町〜品川篇 薄暮の大井町・品川紀行。途切れない道に意識遠のく*6
第六回 沖縄篇 沖縄の、淡い光と小糠雨。身も心も衒気に火照る一日*7
第七回 赤坂篇 赤坂の、謎めいた陽と翳。過ぎし日のたじろぎの所以を辿る*8
- 赤坂はカタギじゃないくせに、一方では〈政府中枢〉とも隣接した地形にあった
- 一ツ木通りの古本屋、工事前のTBS会館。街並みの変貌に、風情の残り香も嗅げず
- 東京の避難所・街角の蕎麦屋で人心地。四方山話で〈赤坂疲れ〉を一旦癒す
- ビートルズ来日、力道山、キャロル伝説。遡ればイプセン会、二・二六事件。伝説の横溢
第八回 六本木篇 行き違った街・六本木のケを摑もうと、宙に泳がせた目をヒルズが遮る*9
- ABC六本木店から「WAVE」跡を通り過ぎて、ヒルズ背面を眺望する
- 戦前の帝国陸軍、戦後の米軍。そして防衛庁。象徴的事件とも縁深いトポス
- 国際文化会館の喫茶室のカレーで一休み。故・鶴見良行氏を偲ぶ夏の夕暮れ時
- 伝説の店キャンティ。キャビアと酒精と六〇年代後半の虚栄の篝火に火照る
第九回 原宿篇 どこまでとなくあるような原宿の、街の底を浚い、時を繋げる冬の工夫*10
- 竹下通りから元「パレフランセ」の更地を脇目に「ピテカン」跡へ
- どこまでが「原宿」なのか。歩道橋から表参道、明治神宮の深い森を眺めて
- 「南国酒家」で紹興酒の杯を重ねれば、時空間異変。「地下文化」って何よ
第十回 下北沢篇 浅春の午後の一瞬。下北沢の五十年が目眩のように通り過ぎるのを見ていた*11
- 五十年来のジャズ喫茶「マサコ」にて。最近のアメリカの日本研究ってすごいよ
- 賑わう通りを流して、踏切で立ち止まる。風が吹く。〈街の記憶〉がまざまざと甦る
- お座敷洋食「すこっと」で白ワインを。濃厚な味に寺田ヒロオ談義が混ざり合う
- 〈当代の下北の旗手〉曽我部恵一の店で街の狭さを憂い、笑い、やはり酔う
第十一回 国立篇 武蔵野の果ての文化と殺風景の溶け込みにここに棲み、去った人の残像が浮んだ*12
- 光溢れる町のガードを潜れば変貌
- 明るいカフェで人物伝説を汲み上げる
- 堪能すべきは山口瞳の妖しい実態
- 足が遠のく町。親しむ町。その処方箋
第十二回 三軒茶屋篇 三軒茶屋、残炎。樹海にも似た捉え切れなさ。取り残された町の渋味をつくづく味わう*13
- 246、茶沢通り、世田谷通りで、区分けされたエリアを俯瞰する。
- 陸の孤島だった七〇年代。なぜか強く残る友達との記憶
- 摑みどころなさのかけがえのなさに美しく雑駁な「味とめ」二階で浸る
エピローグ*14
亀坪対談の記録。
- 今月の5冊──旧知の二人の本好きが、今回は文学、文壇というテーマで5冊選んだが、一味違うライン・ナップに······。(『鳩よ!』1995年1月号、112-113頁)
- 今月の5冊──今月は南方文学から中島敦、そしてマイナーポエット論へと話は展開。露地のような文学とは?(『鳩よ!』1995年4月号、108-109頁)
- 今月の5冊──地図・年表・辞書。この三種類のうち、どれが最も好きかで、性格や潜在的な志向が分かるそうだが──(『鳩よ!』1995年10月号、108-110頁)
- 今月の5冊──生きるってことは、結局、他人とどう付き合うかってことなんですね。つまり〝世間〟に入っていけるかと(『鳩よ!』1996年1月号、122-124頁)
- 今月の5冊──徹底して過剰になることによって、はじめてシンプルなものが見えてくる。禁欲より貪欲のススメである──。(『鳩よ!』1996年4月号、108-110頁)
- CLUB KAMETSUBO 真夜中のトーク・セッション(『鳩よ!』2001年12月号、34-43頁)
- 「ローリング・ストーンズ」と「あさま山荘」(『本の話』2003年6月号、28-33頁)*15
- 連合赤軍の真相はどこに
- 現在に戻ってきた「凄玉」
- 出版PR誌を探せ!(『彷書月刊』2003年7月号、2-9頁)
- 偶然に出会う快感
- 薄く、小さく
- 最近の注目は
- 帰ってきた倶楽部亀坪(『en-taxi』vol.39〔2013年7月25日発行〕、178-180頁)
- 熟年テレビウオッチャー2人が今年の注目番組を振り返る(『SPA!』2017年11月28日号、124-127頁)
「近田春夫の考えるヒット 442/男だ! みのもんた&グループ魂!東京スカパラも昔と変わったねぇ~」(『週刊文春』2006年1月26日号)には次の記述がある。
パンクっていうのが何を指すのかはさておき、正月に入って彷書月刊を読んでいたら坪内祐三と亀和田武の対談があって、これは坪内さんの『極私的東京名所案内』出版に関連したトークショーを起こしたものなのだが、この内容が気の遠くなるほど濃いのである。幅があり奥行きが深く、そして容赦ない。二人とも正に軸足というものの見事にブレがなく、しかもカジュアル。いい換えれば、すンげェーロックを感じさせてくれて、これまたグループ魂に負けず劣らずカッコ良い。文春のレギュラーってけっこうヤバイ人多いじゃん、みたいな気持ちにさせられて2006年は始まったのでありますが、ついつい前フリが長くなって申し訳ない。ここまできたら書いちゃうけど『極私的東京名所案内』は本当に面白かった。久々に、読み飛ばしようのない身のぎっしり詰まった本だった。装丁の金のかかった冗談も、マジナイスだったし。これは買って損のない本です。
「坪内祐三の読書日記/松本道子さんの本を続けて見つけた」(『本の雑誌』2006年4月号、『書中日記』収録)には次の記述がある。
●一月十九日(木)
三時頃、『週刊文春』の最新号(一月二十六日号)の近田春夫の連載「考えるヒット」を読んでいて、たまげる。なぜなら、紅白歌合戦における「グループ魂」のパンク振りを絶賛したのち、話題が突然、『彷書月刊』二〇〇五年十二月号の倶楽部亀坪対談に飛び 、このように言葉が続いて行くのだから。「この内容が気の遠くなるほど濃いのである。幅があり奥行きが深く、そして容赦ない。二人とも正に軸足というものの見事にブレがなく、しかもカジュアル。いい換えれば、すンげェーロックを感じさせてくれて、これまたグループ魂に負けず劣らずカッコ良い」。近田さんと私は一面識もないが、「すンげェーロック」な人として、ずっと前から(「銀座NOW」に出ていた頃から)リスペクトしている人に「すンげェーロック」と言われると本当に「すンげェー」嬉しい。あまりにも嬉しすぎて五~六回読み返してしまう。
「『倶楽部亀坪』(扶桑社)刊行記念トークショー 『彷書月刊』あらしぼり」(『彷書月刊』2009年11月号)には次の記述がある。
坪内 〔…〕近田さんといえば、四、五年前、古書会館でやった「亀坪」トークの『彷書月刊』採録を読んだ近田さんが、『週刊文春』の「考えるヒント」で、グループ魂と並べて「亀坪」のトークはロックだと書いてくれましたね。
亀和田 ちょうどグループ魂が紅白に出た直後の年明けでした。「紅白のグループ魂はパンクだった」と書いてからパンと変調して「ところで『倶楽部亀坪』の二人も、すんげェロックだった」って。
坪内 とにかくリスペクトしてくれまして、うれしかったですねぇ。そういえばあのときも二人で一時間半ぐらい電話でしゃべって、夕方、お互いに外に出るから、じゃあまたと電話を切ったんですよね。
亀和田 その五分後に「坪内ですけど、郵便受けの『週刊文春』、近田さんの連載見ました?」って電話がきて、すぐ郵便受けを見にいったんだ。
*1:二〇〇九年五月
*2:二〇〇四年十一月、『en-taxi』Vol.8 WINTER 2005(2004年12月27日発行)
*3:二〇〇五年二月、『en-taxi』Vol.9 SPRING 2005(2005年3月29日発行)
*4:二〇〇五年五月、『en-taxi』Vol.10 SUMMER 2005(2005年6月29日発行)
*5:二〇〇五年八月、『en-taxi』Vol.11 AUTUMN 2005(2005年9月29日発行)
*6:二〇〇五年十二月、『en-taxi』Vol.12 WINTER 2006(2005年12月27日発行)
*7:二〇〇六年二月、『en-taxi』Vol.13 SPRING 2006(2006年3月27日発行)
*8:二〇〇六年五月、『en-taxi』Vol.14 SUMMER 2006(2006年6月29日発行)
*9:二〇〇六年八月、『en-taxi』Vol.15 AUTUMN 2006(2006年9月29日発行)
*10:二〇〇六年十一月、『en-taxi』Vol.16 WINTER 2007(2006年12月27日発行)
*11:二〇〇七年二月、『en-taxi』Vol.17 SPRING 2007(2007年3月30日発行)
*12:二〇〇七年五月、『en-taxi』Vol.18 SUMMER 2007(2007年6月30日発行)
*13:二〇〇七年八月、『en-taxi』Vol.19 AUTUMN 2007(2007年9月30日発行)
*14:二〇〇九年五月
*15:http://www.bunshun.co.jp/jicho/1972/tsubokame01.htm http://www.bunshun.co.jp/jicho/1972/tsubokame02.htm