「まえがき」に代えて
一九八四年の「アンティゴネ」と二〇〇三年の「アンティゴネ」*1
- オーウェル『一九八四』の年に
- 神々の法に従う「善き個人」と国の法に従う「善き市民」
- 「自由」と「保守」が込められたヘルダーリンの「祖国」
- 「ある特定の徳」と「愛の生ける徳」
- 知識や考察から来る「予想」を超えて
- すべてが振り出しに戻った
戦時の「傷」は暴かれるのを待っている*2
- 「無条件降伏」論争の渦中で
- 東条英機のスピーチライター
- 「東亜の新たな曙たる大東亜戦争勃発の日」
- 『近代文学』の仲間たちの贔屓の引き倒し
- 昭和天皇に対する平野謙と中野重治の「親愛」
- 「第二の敗戦」で「傷」を負った文学者はいたか
今さらネオコンだなんて──ネオコンの祖ノーマン・ポドレッツの転変*3
- 新保守主義のはじまった一九七二年
- サブカル的感性
- 「ニューヨーク知識人」に成り上がる
- 一九六〇年のラディカルが、タカ派の論客に
- 「内なるアメリカ」の発見
- 『コメンタリー』編集長となる
- イデオロギーよりも「野心」
- 知識人が権力と関係を持てる
- 遅れて来た青年期
「一九六八年」を担ったのは誰だったか?*4
- 「一九六八年」に対する歴史認識
- 「過剰にエスカレート」したエネルギー
- 「全共闘世代」イコール「団塊の世代」ではない
- 微妙な世代差
- 「1週間でコロッと顔つきが変わった」
- 六〇年安保との違いは
- ノスタルジーか、現在か
- 瞬間の山本義隆、瞬間の秋田明大
- 思っていた通りの怪物である
- 重要な事柄をさりげなく口にする「夏彦節」
- 美しく、生々しい、見事な恋愛小説
- なぜ『年を歴た鰐の話』再刊を拒否したか
- 「ホルモン」に悩まされる若い日の日記
- 山本伊吾はそのような修正を加えない
いま何故、四十年前の洗脳テロリスト物語か?*6
- 『満州の候補者』と『影なき狙撃者』
- まさにカルト的傑作だった
- 「洗脳」はアメリカ人のキーワード
- 一九六二年の「洗脳」イメージ
- 赤狩りに対する風刺
- ケネディはこの映画を気に入った
- 湾岸戦争とイラク戦争の影
- ブッシュの特殊なキリスト教
- 日本の「カミ」は追放された
- ハイネが予言したナチズム
今時の 反米主義者が嫌いだ- この国の「カミ」はまだ死にはしない
「
軽い 帝国」が行使する「まだましな悪」*8
- I・バーリンの伝記を書いた人物
- 日本にはいないアカデミック・ジャーナリスト
- 二十一世紀型の「戦争」が始まった
- 瓦礫の街を歩きながらの対話
- 「国家建設というかたちの帝国による指導」
- 「積極的」自由は独裁制に陥りかねない
一九七九年春、その時に「歴史」は動いていた*9
初出一覧
(17)古本的
Ⅰ 古本的
- 古本への情熱? 木村毅『青燈随筆』(双雅房・昭和十年)*1
- 驚き喜んだ木村毅の一冊 木村毅『巴里情痴傳』(千倉書房・昭和六年)*2
- もうひとつの『文藝春秋』 菊池寛『文藝春秋』(金星堂出版「随筆感想叢書」・大正十一年)*3
- ある時代の芥川賞作家たち 『別冊文藝春秋第三十七号』(昭和二十八年十二月二十八日発行)*4
- 忘れられた立役者・結城禮一郎 結城禮一郎『旧幕新撰組の結城無二三』(中公文庫)*5
- 嬉しい不意打ち『最新金儲談義』 結城禮一郎『最新金儲談義〔1〕〔2〕』(五福堂・昭和六~七年)*6
- 多くを語るパンフレット 『最新金儲談義』シリーズ内容見本*7
- 兄が兄なら妹は······ 古屋登世子『女の肖像』(芸能出版・昭和三十七年)*8
- 『小林清親画伝』の不思議 『小林清親画伝』(版元不明・戦前)*9
- ダブリ本に手が出る時 『栅山人小說全集』(半狂堂・昭和六年)*10
- 泥棒が書いた小説 『栅山人小說全集』(半狂堂・昭和六年)*11
- 千円で買った『近事画報』 『近事画報』(東京社)*12
- 明治三十九年の地震予想記事 『近事畫報』(東京社・明治三十九年三月一日号)*13
- 上野文庫で買った『あまカラ』 『あまカラ』*14
- 古き良きジャーナリズムの匂い 『あまカラ』*15
- 三百円の掘り出し物 佐々倉航三『随筆集小鹿物語』*16
- 文人たちの一種病的なところ 佐々倉航三『随筆集小鹿物語』*17
- 久し振りの江口書店で買った本 岡本一平『かの子の記』(小学館・昭和十七年)*18
- 三冊目の『明治文壇の人〻』 馬場孤蝶『明治文壇の人〻』(三田文学出版部)*19
- 中央線沿線らしい古本 私家版『逸見廣選集』(校倉書房)*20
- 「河出新書写真篇」というシリーズ 河出新書写真篇23『東京24時間』(昭和三十年)*21
- 高見順の銀座浅草比較論 高見順『私の小說勉强』(竹村書房・昭和十四年)*22
- 数年がかりの収穫本 馬渕録太郎『木口木版伝来と余談』(中央公論事業出版・昭和六十年)*23
- 岡本唐貴の〝この手の本〟 『岡本唐貴画集』*24
- 国学院大学講師の吉田健一 庄司孝男『吉田健一とティオペペ』(私家版)*25
- 内田魯庵の若き友人 衛藤利夫『短檠』(満鉄社員会・昭和十五年)*26
- 普通の月報とはひと味違う 角川書店「昭和文学全集」月報(昭和三十年代)*27
- 広津和郎の知られざる名著 広津和郎『早慶野球年史』(誠文堂十錢文庫・昭和五年)*28
- 杉山龍丸という人物 杉山龍丸『飢餓を生きる人々』(潮新書・昭和四十八年)*29
- 横山健堂の短文集 横山健堂『快心錄』(日東堂・大正五年)*30
- 水上瀧太郎の印象的なエッセイ 水上瀧太郎『貝殻追放』(改造文庫 文体社・昭和二十二・三年)*31
- 上林暁の古本市随筆 上林暁『文と本と旅と』(五月書房・昭和三十四年)*32
- 吉川英治のちょっといい話 雜司十郎『編輯者の手帖』(蒼生社・昭和二十二年)*33
- 松たか子のご先祖さんが書いた本 丸木砂土『處女學講座』(文藝春秋社出版部・昭和七年)*34
- 第一流の回想作家、江見水蔭 江見水蔭『明治文壇逸話』(江水社・昭和九年)*35
- 国語学者が伝える「名士の面影」 保科孝一『ある国語学者の回想』(朝日新聞社・昭和二十七年)*36
- 随筆
集 『文体』は一級の歴史資料だった 岩本和三郎編集『随筆集・文体』(文体社)*37- 間宮茂輔のことをずっと誤解していた 間宮茂輔『三百人の作家』(五月書房・昭和三十四年)*38
- 瀧井孝作のデカい本 瀧井孝作『志賀直哉對談日誌』(全國書房・昭和二十二年)*39
- 野口冨士男の一篇に出会えるだけで 『不同調・復活号』(昭和二十二年七月)*40
- 戸川残花の心ひかれる一節 戸川残花『江戸史蹟』(内外出版協会・明治四十五年)*41
- 「随筆は苦手」と悩む太宰の随筆 太宰治『もの思う葦』(近代文庫・昭和二十七年)*42
- 素晴らしい能登の小作家 加能作次郎『このわた集』(大理書房・昭和十六年)*43
- 一九五二年秋の銀座風景 『アルス・グラフ・一九五二年十月臨時増刊〝銀座〟号』*44
- 二千五百円で入手した武野藤介 武野藤介『文壇餘白』(健文社・昭和十年)*45
- 博報堂・瀬木博尚の空白時代が気になる 『瀨木博尙追憶記』(内外通信社博報堂・昭和十五年)*46
- 初めて見た雑誌『東京』 『東京・創刊号』(東京雜誌社・明治三十六年九月十七日号)*47
- 〝月の輪〟の見舞いはスペシャルな古本 高井辰三『天下泰平文壇與太物語』(牧民社・大正四年)*48
あの 斎藤十一の若き日。伊藤整の回想 伊藤整『我が文學生活Ⅲ』(講談社・昭和三十二年)*49
Ⅱ ミステリは嫌いだが古本は好きだからミステリも読んでみた
- ポケミス686番を探す*50
- 田中小実昌が「主語なし」で訳した本*51
- ミステリ嫌いの私が堪能した都筑道夫*52
- 北沢書店で買った研究書『ハードボイルド』*53
- 『ブラック・マスク』の世界を探しに*54
- 蔵書整理中に読みふけってしまった一冊の古雑誌*55
- 青猫書房の目録で知った新刊ミステリ*56
- 松山俊太郎さんに導かれ、小栗虫太郎を読みはじめる*57
- 横溝正史、生誕百年を記念して刊行された二冊*58
- ポップでキュートでレモンイエロー*59
- あの『ハイ・シエラ』が本邦初訳*60
- 〝日本誤解小説〟のディティル*61
- 古本大学に通うと思わず買ってしまう*62
- 見かけるたびに買っていた〝卒読書〟*63
あとがき*64
(16)『別れる理由』が気になって
Ⅲ
8*8
9*9
10*10
11*11
12*12
13*13
*1:「群像」二〇〇二年五月号
*2:「群像」二〇〇二年七月号
*3:「群像」二〇〇二年八月号
*4:「群像」二〇〇二年九月号
*5:「群像」二〇〇二年十月号
*6:「群像」二〇〇二年十一月号
*7:「群像」二〇〇二年十二月号
*8:「群像」二〇〇三年四月号
*9:「群像」二〇〇三年五月号
*10:「群像」二〇〇三年六月号
*11:「群像」二〇〇三年七月号
*12:「群像」二〇〇三年八月号
*13:「群像」二〇〇三年九月号
*14:「群像」二〇〇三年十月号
*15:「群像」二〇〇三年十一月号
*16:「群像」二〇〇三年十二月号
*17:「群像」二〇〇四年一月号
*18:「群像」二〇〇四年二月号
*19:「群像」二〇〇四年三月号
(15)私の体を通り過ぎていった雑誌たち
小学校時代 1965―1971 雑誌が私の学校だった
初めて買った雑誌はど『冒険王』と『少年画報』だ*1
あの頃の『少年マガジン』は素晴らしい〝総合雑誌〟だった*2
『別冊ゴング』の「ゆずってください」欄に名前が載った*3
『ゴング』の「読者の誌上会見」を毎号熟読玩味 した*4
『漫画讀本 』を知ったのはジョン・F・ケネディの暗殺の日だった気がする*5
祖母が愛読していた週刊『TVガイド』*6
中学校時代 1971―1974 いよいよ雑誌にはまっていった
『週刊ベースボール』でヤクルトアトムズのペピトーンの顔を知った*7
『スクリーン』に載った幻の「荒野の七人」(第四作)の予告*8
生まれて初めて定期購読したのは『キネマ旬報』だった*9
日比谷の不思議な「三角洲 」で見つけた二つの映画雑誌*10
『平凡』より『明星』の方が垢抜 けていたような気がする*11
昼休みによく相撲をとった私は『相撲』を愛読した*12
高校時代 1974―1977 いわゆる「雑誌の時代」にリアルタイムでドキドキ
出来たばかりのBIGBOXの古本市で買った『COM』のバックナンバー*13
林静一が表紙デザイン担当だった『ガロ』が忘れられない*14
高校一年生にはレベルが高過ぎた『宝島』を何度も眺めた*15
ディランに目覚めて手にした日本版『ローリングストーン』*16
『ニューミュージック・マガジン』の内田裕也 の文章にガツンとやられた*17
一見ミーハーな『ミュージック・ライフ』のインタビュー記事はロックしていた*18
『週刊読売』の横尾忠則のアヴァンギャルドな表紙*19
エロだけでなく読物も充実していた『週刊プレイボーイ』と『平凡パンチ』*20
『月刊PLAYBOY 』に日本版「ニュージャーナリズム」を感じた*21
予備校時代 1977―1978 いつのまにか読書家になっていた
いかにして私は文春小僧となりしか*22
実は『面白半分』を愛読していたわけではない*23
時代の新しさに対応していた『本の雑誌』のアマチュアリズム*24
『マスコミひょうろん』から『噂 の眞相 』へ*25
大学時代 1978―1983 チッと思いながらも実は新しいものも好きだった
〝たしかに冬樹社という時代があった〟『50冊の本』*26
『カイエ』『海』『ユリイカ』の三誌鼎立 に何かが始まる予感があった*27
一九七九年の『ハッピーエンド通信』*28
『ブルータス』の読書特集号は読み応 えがあった*29
出版社のPR誌のことも忘れてはいけない*30
現代版『洋酒天国』としての期待に応 えた『サントリークォータリー』*31
「新言文一致」時代のインタビュー誌『スタジオ・ボイス』が新鮮だった*32
就職試験を受ける頃に創刊された『BOOKMAN』*33
私は学生ミニコミ誌『マイルストーン』編集部にいた*34
あとがき
解説 群ようこ
*1:『小説新潮』2002年2月号、初出題「小学館の学習雑誌で「スポーツマン金太郎」をリアルタイムで読んだ」
*2:『小説新潮』2002年3月号、初出題「あの頃の『少年マガジン』は素晴らしい総合雑誌だった」
*3:『小説新潮』2002年4月号、初出題「『別冊ゴング』の誌面構成はハイカラでモダンだった」
*4:『小説新潮』2002年5月号、初出題「『ゴング』の「読者の誌上会見」は毎号読みごたえがあった」
*5:『小説新潮』2002年6月号、初出題「『漫画讀本』を知ったのはジョン・F・ケネディ暗殺の日?」
*6:『小説新潮』2002年7月号、初出題「昭和四十年の週刊『TVガイド』に信じられない人がコラムを執筆していた」
*7:『小説新潮』2002年8月号 初出題「『週刊ベースボール』でペピトーンの記事を熱心に読んだ」
*8:『小説新潮』2002年9月号、初出題「『スクリーン』一九七二年二月号に載っていた「荒野の七人」第四作の予告」
*9:『小説新潮』2002年10月号、初出題「生まれて初めて定期購読した雑誌が『キネマ旬報』だった」
*10:『小説新潮』2002年11月号、初出題「「東宝ファンタジ・コーナー」で見つけた二つの映画雑誌」
*11:『小説新潮』2002年12月号、初出題「『明星』の一九七二年四月号の座談会に
*12:『小説新潮』2003年1月号、初出題「昭和四十八年の『相撲』の「秋場所展望号」」
*13:『小説新潮』2003年2月号、初出題「BIGBOXの古書市で買った『COM』のバックナンバー」
*14:『小説新潮』2003年3月号、初出題「林静一が表紙デザイン担当だった一九七四年の『ガロ』」
*15:『小説新潮』2003年4月号、初出題「『宝島』一九七四年十二月号に間に合った私は運が良かった」
*16:『小説新潮』2003年5月号、初出題「『宝島』よりも前に買った日本版『ローリングストーン』」
*17:『小説新潮』2003年6月号、初出題「『ニューミュージック・マガジン』に載った内田裕也のロッケンロールした文章にガツんとやられた」
*18:『小説新潮』2003年7月号、初出題「『ミュージック・ライフ』に載ったインタビューはかなり
*19:『小説新潮』2003年8月号、初出題「昭和五十年四月から八月の『週刊読売』の表紙はアヴァンギャルドだった」
*20:『小説新潮』2003年9月号、初出題「今東光の「極道辻説法」は立ち読みするのがもったいなかった」
*21:『小説新潮』2003年10月号、初出題「日本版『月刊PLAYBOY』は日本版「ニュージャーナリズム」の推進力だった」
*22:『小説新潮』2003年11月号、初出題「私はいかにして文春小僧になりにしか」
*23:『小説新潮』2003年12月号、初出題「実は私はリトル・マガジンがあまり好きではなかった」
*24:『小説新潮』2004年1月号、初出題「『本の雑誌』に彗星のように現われ彗星のように消えた麒麟児研とは誰か」
*25:『小説新潮』2004年2月号、初出題「サヨウナラ『噂の真相』」
*26:『小説新潮』2004年3月号、初出題「たしかに冬樹社という時代があった」
*27:『小説新潮』2004年4月号、初出題「『カイエ』『海』『ユリイカ』の三誌が鼎立していた頃」
*28:『小説新潮』2004年5月号、初出題「『ハッピーエンド通信』は特に一九七九年末の四冊が素晴らしかった」
*29:『小説新潮』2004年6月号、初出題「創刊一、二年目の頃の『ブルータス』は、特に読書特集号は素晴らしかった」
*31:『小説新潮』2004年8月号、初出題「PR誌といえば『サントリー・クォータリー』のことを忘れてはいけない」
*32:『小説新潮』2004年9月号、初出題「インタビューの時代のインタビュー雑誌といえば『スタジオ・ボイス』だった」
(14)文庫本福袋
- 坪内祐三『
文 庫 本 福 袋 』、文春文庫、2007年12月10日第1刷
デザイン 鶴丈二
2000
青山光二『金銭と掟』 双葉文庫*2
坂本信一『ゴミにまみれて』 ちくま文庫*3
一ノ関圭『らんぷの下』 小学館文庫*4
山田風太郎『あと千回の晩飯』 朝日文庫*5
松本清張『文豪』 文春文庫*6
ボブ・ズムダ/塩原通緒訳『マン・オン・ザ・ムーン』 角川文庫*7
鶯亭金升『明治のおもかげ』 岩波文庫*8
根本圭助『異能の画家 小松崎茂』 光人社NF文庫*9
伊藤桂一『螢の河/源流へ』 講談社文芸文庫*10
竹熊健太郎『私とハルマゲドン』 ちくま文庫*11
多川精一『戦争のグラフィズム』 平凡社ライブラリー*12
三島由紀夫・東大全共闘『美と共同体と東大闘争』 角川文庫*13
田中小実昌『世界酔いどれ紀行 ふらふら』 知恵の森文庫*14
柴田宵曲/小出昌洋編『団扇の画』 岩波文庫*15
玉村豊男『東欧・旅の雑学ノート』 中公文庫*16
夏目房之介『あの頃マンガは思春期だった』 ちくま文庫*17
ジョージ・スタイナー/生松敬三訳『マルティン・ハイデガー』 岩波現代文庫*18
平井呈一『真夜中の檻 』 創元推理文庫*19
野坂昭如『ひとでなし』 中公文庫*20
本橋信宏『裏本時代』 新潮OH!文庫*21
林達夫『林達夫セレクション』1 平凡社ライブラリー*22
荒俣宏監修『知識人99人の死に方』 角川ソフィア文庫*23
石田波郷 『江東歳時記/清瀬村(抄)』講談社文芸文庫*24
平出鏗二郎『東京風俗志』上・下 ちくま学芸文庫*25
エリック・ラーソン/島田三蔵訳『1900年のハリケーン』 文春文庫*26
加藤典洋『日本風景論』 講談社文芸文庫*27
2001
正岡子規『病牀六尺』 岩波文庫*28
川本三郎『クレジットタイトルは最後まで』 中公文庫*29
長谷川町子『別冊サザエさん』①② 朝日文庫*30
ジャック・デリダ/林好雄・森本和夫・本間邦雄訳『言葉にのって』 ちくま学芸文庫*31
中村吉右衛門『半ズボンをはいた播磨屋』 PHP文庫*32
枝川公一『日本マティー二伝説』 小学館文庫*33
正岡容『明治東京風俗語事典』 ちくま学芸文庫*34
児玉隆也『淋しき越山会の女王 他六編』 岩波現代文庫*35
大久保喬樹『風流のヒント』 小学館ライブラリー*36
大岡昇平『成城だより』㊤ 講談社文芸文庫*37
殿山泰司『バカな役者め!!』 ちくま文庫*38
泉麻人『大東京バス案内 』 講談社文庫*39
E・バートレット・カー/大谷勲訳『東京大空襲』 光人社NF文庫*40
赤瀬川原平『櫻画報大全』 新潮文庫*41
富岡多惠子『漫才作者 秋田實』 平凡社ライブラリー*42
宮本常一『空からの民俗学』 岩波現代文庫*43
森山大道『犬の記憶』 河出文庫*44
色川武大『生家へ』 講談社文芸文庫*45
山際素男『不可触民』 知恵の森文庫*46
徳富蘇峰『弟 徳冨蘆花』 中公文庫*47
横尾忠則『名画 裸婦感応術』 知恵の森文庫*48
竹中労『芸能人別帳』 ちくま文庫*49
村松友視『食べる屁理屈』 学研M文庫*50
宮脇俊三『増補版 時刻表昭和史』 角川文庫*51
桑原稲敏『往生際の達人』 新潮文庫*52
宮本和義+建築知識編集部編著『東京を歩こう!』 エクスナレッジムック*53
岡崎武志『古本でお散歩』 ちくま文庫*54
吉行淳之介『やわらかい話』 講談社文芸文庫*55
ハーバート・アズベリー/富永和子訳『ギャング・オブ・ニューヨーク』 ハヤカワ文庫*56
福田和也編『江藤淳コレクション』2 ちくま学芸文庫*57
森銑三/小出昌洋編『新編 明治人物夜話』 岩波文庫*58
今西英造『演歌に生きた男たち』 中公文庫*59
大川渉・平岡海人・宮前栄『下町酒場巡礼』 ちくま文庫*60
M・K・ガーンディー/田中敏雄訳『真の独立への道』 岩波文庫*61
高田文夫編『江戸前で笑いたい』 中公文庫*62
松本昭夫『精神病棟の二十年』 新潮文庫*63
加藤郁乎『後方見聞録』 学研M文庫*64
野地 秩嘉 『サービスの達人たち』 新潮OH!文庫*65
マーヴィン・ハリスス/板橋作美訳『食と文化の謎』 岩波現代文庫*66
中野利子『外交官E・H・ノーマン』 新潮文庫*67
今和次郎編纂『新版大東京案内』上・下 ちくま学芸文庫*68
高橋義孝『私の人生頑固作法』 講談社文芸文庫*69
高橋克彦『浮世絵探検』 角川文庫*70
ジョン・レノン、オノ・ヨーコ/池澤夏樹訳『ジョン・レノン ラスト・インタビュー』 中公文庫*71
岡本綺堂『風俗江戸東京物語』 河出文庫*72
2002
W・テレンス・ゴードンン/宮澤淳一訳『マクルーハン』 ちくま学芸文庫*73
立花隆+東京大学教養学部立花隆ゼミ『二十歳 のころ』Ⅰ・Ⅱ 新潮文庫*74
吉田司『宮澤賢治殺人事件』 文春文庫*75
檀一雄『海の泡』 講談社文芸文庫*76
神谷美恵子『神谷美恵子日記』 角川文庫*77
生田耕作『黒い文学館』 中公文庫*78
中山信如『古本屋おやじ』 ちくま文庫*79
丸山眞男・古在由重『一哲学徒の苦難の道』 岩波現代文庫*80
滝田ゆう『滝田ゆう名作劇場』 講談社漫画文庫*81
ターザン山本『プロレスvs格闘技カリスマ大戦争』 ワニ文庫*82
栗林忠道/吉田津由子編『「玉砕総指揮官」の絵手紙』 小学館文庫*83
エドワード・ファウラー/川島めぐみ訳『山谷ブルース』 新潮OH!文庫*84
マルロムX/濱本武雄訳『完訳 マルコムX自伝』上・下 中公文庫*85
周作人/木山英雄編訳『日本談義集』 東洋文庫*86
矢田津世子『神楽坂/茶粥の記』 講談社文芸文庫*87
小林信彦・荒木経惟『私説東京繁昌記』 ちくま文庫*88
谷口雅彦『裸女の秘技絢爛絵巻』 河出文庫*89
梅棹忠夫『行為と妄想』 中公文庫*90
山田宏一『友よ映画よ、わがヌーヴェル・ヴァーグ誌』 平凡社ライブラリー*91
高森朝雄作/辻なおき画『ジャイアント台風』①② 講談社漫画文庫*92
根本幸央『張り込みカメラマン ザ・スクープ撮!!』 宝島社文庫*93
ナンシー関『何が何だか』 角川文庫*94
大庭萱朗 編『田中小実昌エッセイ・コレクション』Ⅰ「ひと」 ちくま文庫*95
河東碧梧桐『子規を語る』 岩波文庫*96
本間國雄『東京の印象』 現代教養文庫*97
フリーダ・フィッシャー/安藤勉訳『明治日本美術紀行』 講談社学術文庫*98
大西巨人『神聖喜劇』第一巻 光文社文庫*99
ヤコブ・ラズ/高井宏子訳『ヤクザの文化人類学』 岩波現代文庫*100
『新潮文庫全作品目録1914~2000』 新潮社*101
デイヴィッド・ハルバースタムム/金子宣子訳『ザ・フィフティーズ』全三巻 新潮OH!文庫*102
大山史朗『山谷崖っぷち日記』 角川文庫*103
リチャード・ブローティガンン/青木日出夫訳『愛のゆくえ』 ハヤカワepi文庫*104
澁澤龍彥『都心ノ病院ニテ幻覚ヲ見タルコト』 学研M文庫*105
村松友視『力道山がいた』 朝日文庫*106
ドナルド・キーン/足立康訳『果てしなく美しい日本』 講談社学術文庫*107
姫野カオルコ『ほんとに「いい」と思ってる?』 角川文庫*108
岡本太郎『芸術と青春』 知恵の森文庫*109
庄司薫『ぼくの大好きな青髭』 中公文庫*110
マルセル・プルースト/保苅瑞穂編『プルースト評論選』Ⅰ ちくま文庫*111
山本夏彦『オーイどこ行くの』 新潮文庫*112
和田茂樹編『漱石・子規往復書簡集』 岩波文庫*113
正宗白鳥『自然主義文学盛衰史』 講談社文芸文庫*114
E・パノフスキー/永澤峻ほか訳『イコノロジー研究』上・下 ちくま学芸文庫*115
レオポルド・ショヴォー/出口裕弘訳『年をとったワニの話』 福音館文庫*116
トルーマン・カポーティ/野坂昭如訳『カメレオンのための音楽』 ハヤカワepi文庫*117
2003
リチャード・クック/前野律訳/行方均監修『ブルーノート・レコード』 朝日文庫*118
松竹編『小津安二郎 新発見』 講談社+α文庫*119
青山二郎『青山二郎全文集』上・下 ちくま学芸文庫*120
F・W・ディーキン、G・R・ストーリィ/河合秀和訳『ゾルゲ追跡』上・下 岩波現代文庫*121
ダンテ/寿岳文章訳『神曲』〔Ⅰ〕地獄篇 集英社文庫*122
庄野潤三『庭のつるばら』 新潮文庫*123
安藤鶴夫『歳月』 講談社文芸文庫*124
木村荘八『東京風俗帖』 ちくま学芸文庫*125
大田垣晴子『サンサル』① MF文庫*126
杉浦茂『少年児雷也』1 河出文庫*127
ポール・ジョンソン/別宮貞徳訳『インテレクチュアルズ』 講談社学術文庫*128
M・マクルーハン、E・カーペンター編著/大前正臣・後藤和彦訳『マクルーハン理論』 平凡社ライブラリー*129
嵐山光三郎編『山口瞳「男性自身」傑作選』熟年篇 新潮文庫*130
清水哲男編『辻征夫詩集』 芸林21世紀文庫*131
リング・ラードナー/加島祥造訳『メジャー・リーグのうぬぼれルーキー』 ちくま文庫*132
北原童夢・早乙女宏美『「奇譚クラブ」の人々』 河出文庫*133
尾崎紅葉『多情多恨』 岩波文庫*134
澤田隆治『決定版 私説コメディアン史』 ちくま文庫*135
貴田庄『小津安二郎 東京グルメ案内』 朝日文庫*136
船曳建夫『二世論』 新潮文庫*137
金太『金太のサラ金勤務日誌』 宝島社文庫*138
宇野浩二『独断的作家論』 講談社文芸文庫*139
ヴァルター・ベンヤミンン/今村仁司・三島憲一ほか訳『パサージュ論』第一巻 岩波現代文庫*140
吉行淳之介『淳之介養生訓』 中公文庫*141
安岡章太郎『私の濹東綺譚』 新潮文庫*142
小沼丹『黒いハンカチ』 創元推理文庫*143
ウォード・モアハウスⅢ/赤根洋子訳『ザ・プラザ』 ヴィレッジブックス*144
アンドレ・ブルトン/巖谷國士訳『ナジャ』 岩波文庫*145
海野 十三 『赤道南下』 中公文庫*146
ロバート・エヴァンズ/柴田京子訳『くたばれ! ハリウッド』 文春文庫*147
谷沢永一『私の「そう・うつ60年」撃退法』 講談+α文庫*148
青木るえか『主婦は踊る』 角川文庫*149
川端康成『文芸時評』 講談社文芸文庫*150
エドウィン・O・ライシャワー、ハル・ライシャワー/入江昭監修『ライシャワー大使日録』 講談社学術文庫*151
市川雷蔵『雷蔵、雷蔵を語る』 朝日文庫*152
中原淳一『中原淳一の幸せな食卓』 集英社be文庫*153
片岡義男『日本語の外へ』 角川文庫*154
中山康樹『ビーチ・ボーイズのすべて』枻 文庫*155
パトリシア・スタインホフ/木村由美子訳『死へのイデオロギー』 岩波現代文庫*156
赤瀬川原平『ゼロ発信』 中公文庫*157
いしかわじゅん『鉄槌!』 角川文庫*158
東海林さだお『なんたって「ショージ君」』 文春文庫*159
嵐山光三郎『口笛の歌が聴こえる』 新風舎文庫*160
柴田錬三郎『柴錬ひとりごと』 中公文庫*161
大場正史訳『バートン版 千夜一夜物語』 ちくま文庫*162
2004
都筑道夫『女を逃すな』 光文社文庫*163
仲田定之助『明治商売往来』 ちくま学芸文庫*164
狐『水曜日は狐の書評』 ちくま文庫*165
キケロー/中務哲郎訳『老年について』 岩波文庫*166
石田五郎『天文台日記』 中公文庫*167
佐藤春夫『佐藤春夫』 新学社近代浪漫派文庫*168
内田百閒『うつつにぞ見る』 ちくま文庫*169
戸板康二『続 歌舞伎への招待』 岩波現代文庫*170
ビジネスリサーチ・ジャパン『2004年版 図解 業界地図が一目でわかる本』 知的生きかた文庫*171
ケリー・リンク/金子ゆき子・佐田千織訳『スペシャリストの帽子』 ハヤカワ文庫*172
ツルシカズヒコ文/ワタナベ・コウ絵『ポチ&コウの野球旅』 知恵の森文庫*173
小沢昭一『雑談にっぽん色里誌 仕掛人編』 ちくま文庫*174
色川武大『いずれ我が身も』 中公文庫*175
サッカリー/中島賢二訳『虚栄の市』(一) 岩波文庫*176
伊丹由宇『超こだわりの店乱れ食い』 文春文庫PLUS*177
牧野富太郎『牧野富太郎自叙伝』 講談社学術文庫*178
ポール・ヴァレリー/清水徹訳『ムッシュー・テスト』 岩波文庫*179
岡留安則『武器としてのスキャンダル』 ちくま文庫*180
小林信彦『面白い小説を見つけるために』 知恵の森文庫*181
高群逸枝『娘巡礼記』 岩波文庫*182
鹿島茂『衝動買い日記』 中公文庫*183
ジェイムズ・ジョイスス/丸谷才一・永川玲二・高松雄一訳『ユリシーズ』第Ⅰ巻 集英社文庫*184
山田稔『残光のなかで』 講談社文芸文庫*185
青木正美『古本屋五十年』 ちくま文庫*186
谷崎潤一郎 歌/棟方志功 板『歌々板画巻』 中公文庫*187
村上春樹『シドニー!』①② 文春文庫*188
笠原和夫『「妖しの民」と生まれきて』 ちくま文庫*189
加島祥造『伊那谷の老子』 朝日文庫*190
城山三郎『指揮官たちの特攻』 新潮文庫*191
中山康樹『ディランを聴け!!』 講談社文庫*192
加太こうじ『紙芝居昭和史』 岩波現代文庫*193
カルヴィン・トムキンズ/青山南訳『優雅な生活が最高の復讐である』 新潮文庫*194
田中小実昌『自動巻時計の一日』 河出文庫*195
西条靫負について
大西巨人の小説『神聖喜劇』(光文社文庫)には
この西条靫負の主要なモデルが誰なのかは明らかではないが、部分的なモデルになったであろう人物は大西巨人のインタビューにおける発言から推測することが出来る。
波潟剛と田代ゆきによるインタビュー「大西巨人氏に聞く」(『大西巨人・走り続ける作家』6-7頁、福岡市文学館、二〇〇八年十一月十五日発行、「二〇〇八年七月二十日 大西巨人氏宅にて」)には以下の証言がある。
大西 ノートの端っこに切れっ端に──原稿用紙でなくて──書いとったんです。それが残っとったのを、これはなかなか面白いなと思って。旧制福岡高校の頃、大石徹という男がいて、ちょっと変わった男でね。浮羽中学(福岡)の開校以来の秀才と言われた男だそうです。一年の時は二番じゃったかな、ところが二年から三年にかけては私とケツを争うようになってしまってね、仲良しでしたがね。その男も文学、それからニーチェ好きでドイツ語なんかもよく出来た男ですが、それがその「走る男」というノートの切れっ端に書いたのを読んで、「とてもこれは良う出来とる」と言うて褒めたことがあってね、それが記憶に残っとる。「作った者と作られた者との群れが、雑然として」という表現がなかなか面白いなどと言うて。
〔…〕
大西 あの、最近ね、一読者よりという手紙が来て、それに大西は嘘を書いとるんじゃないかとある。横浜事件ってあったでしょ。その浅石晴世 と同級生と書いとるけど、*2浅石は十四回生だ、大西は十三回生だ、浅石は一級下のはずだという。つまり歴史というものはそういうところで性格を変えてくる。浅石というのは十二回入学なんです。ところが呼吸器疾患かで一回休学したんだな。それで私と一緒になった。だから二年になったときは同級生、そしてまた再発して休学した。それで卒業は一年遅れた。そういうことでね。ところがそれを知らん人は活字の上だけで物事を見ると、大西は嘘をついとるということになるんですね。大西は正確というけど嘘をつくんだということを、自分で手柄を立てたように発見者のようにして私を糾明する。本人が無知なんです。〔…〕
田代 浅石晴世とは旧制福高の頃に交友はあったのですか。
大西 いえ、浅石とは同級生ちゅうだけでね、私は個人的な交わりが特にあった訳ではありません。
田代 横浜事件の時は。
大西 あの時は、私は兵隊やから。知ったのは私が出した「精神の氷点」という小説の掲載誌「世界評論」の社長が小森田一記 、編集長が青木滋 で、両方とも横浜事件の当事者。浅石が留置場の石畳の上で血を吐いて死んどったというのは青木さんから聞いたんだ。私自身は浅石くんとは特に個人的な交友はなかった。
インタビューではまず大石徹という旧制福岡高校時代の同級生について述べている。
大石徹は1933年に旧制福岡高校文科甲類入学*3、1936年に卒業*4。同年、九州帝国大学法文学部に入学*5、1939年に卒業*6した人物である。
インタビューにおける「浮羽中学(福岡)の開校以来の秀才」という証言は『神聖喜劇』第一巻181頁の以下の記述と照応する。
西条靫負は、もと私より一年上級の文科甲類生であった。彼は、いわゆる「秀才型」には縁遠いほうの男であったが、福岡県立D中学において開校以来第一等の俊秀と称せられたのであって、F高校においても(成績表上のよりも、むしろ実地実力上の)頭脳明敏学力卓抜を教師学生間に承認せられていた。
「二年から三年にかけては私とケツを争うようになってしまってね」という証言は『神聖喜劇』第一巻183頁の以下の記述と照応する。
一学年欠席回数が三十回に達する者は落第させられる(原級に留め置かれる)、と学則は定めていて、この定めは、
仮借 なく適用せられ行なわれていた。ところで、西条と私とは、同級生中において欠席多数の両大関であり、飛行隊見学までに、西条は、二十九回欠席していて、私は、二十八回欠席していた。
「その男も文学、それからニーチェ好きでドイツ語なんかもよく出来た男」という証言は『神聖喜劇』第一巻212-213頁の以下の記述と照応する。
しかし西条の読書範囲がたいそう広いということ、彼がマルクス主義文献以外にもたとえば日本およびイギリス、アメリカ、ドイツの古典文学、ドイツの近世ならびに近代哲学などを相当広く深く読みつつあるということを、私は、同級生たちその他とともに、承知しています。以前彼が校友会雑誌に掲載した『ウイリアム・ブレーク論』、『晩年の
梁川星巌 および梁川紅蘭 について』、今度彼が校友会雑誌に発表した『ゲオルク・ビュヒネルとその時代』は、そのことの明白な例証であり得るでしょう。
インタビューでは次に浅石晴世という旧制福岡高校時代の同級生について述べている。*7
浅石晴世は1916年2月17日生まれ。1933年に旧制福岡高校文科甲類入学*8、1937年に卒業*9。同年、東京帝国大学文学部国史学科に入学*10、1940年に卒業*11。同年、中央公論社に入社する。中央公論社調査室員であった1943年7月31日横浜事件に連座して逮捕され、1944年11月13日横浜拘置所内で喀血による窒息で牢死したとされる人物である。
インタビューにおける「浅石というのは十二回入学なんです。ところが呼吸器疾患かで一回休学したんだな。それで私と一緒になった。だから二年になったときは同級生」という証言は『神聖喜劇』第一巻181頁の以下の記述と照応する。
西条は、二年第一学期の中途から肺疾のため一年間休学して、翌年私と同級に復学した。
「浅石が留置場の石畳の上で血を吐いて死んどったというのは青木さんから聞いたんだ。」という証言、すなわち太平洋戦争中の浅石晴世の牢死を戦後になって知ったという証言は『神聖喜劇』第一巻232-233頁の以下の記述と照応する。
西条と私との連絡は、その被検挙事件からのち、まったく
跡絶 えたのであった。同年初冬に京阪神共産主義集団の一人として逮捕せられた西条が敗戦の前前年に(兄真人とおなじく)牢死 した、ということを、私は、ようやく敗戦の翌年に知り得たのである。
西条靫負と浅石晴世はともに1916年生まれ。西条靫負は1939年に逮捕され1943年に牢死するが、浅石晴世は1943年に逮捕され1944年に牢死するのである。
以上の推測が正しいとすれば、西条靫負のモデルには福岡高校時代の同期生である大石徹と浅石晴世が含まれていると見做せそうである。
*1:『新日本文学』連載時は西条数馬。1968年刊行のカッパ・ノベルス版『神聖喜劇』「第一部 混沌の章(上)」以降は西条靫負。
*2:2007年刊行『地獄篇三部作』の「この小説(『地獄篇三部作』)の、やや長い「前書き」(文中敬称略)」における「またちなみに、同誌戦前戦中編集部員として同事件に座し・未決拘留中に獄死した(時の当局から不当にも虐殺せられた)
*3:http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2958378/7
*4:http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2959288/7
*5:http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2959293/6
*6:http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2960191/14
*7:この証言には色々と不可解な個所がある。大西巨人は自らを旧制福岡高校の十三回生(1934年入学、1937年卒業)であるとしている。浅石晴世は十二回生であり、二回休学して十四回生として卒業したとしている。しかるに、このインタビューで大西巨人は西山節蔵と一緒に旧制福岡中学校から旧制福岡高校に進学したと証言し、西山節蔵については「福高12回文丙」という注記がなされている。官報第1906号(1933年5月12日)の「福岡高等学校ニ於テ去月十日ヨリ〔…〕入学ヲ許可セル者ノ氏名」および官報第2808号(1936年5月15日)の「福岡高等学校ニ於テ本年三月三十一日高等科ヲ〔…〕卒業セシ者ノ氏名」には大西巨人の名があり、大西巨人は間違いなく旧制福岡高校十二回生(1933年入学、1936年卒業)なのである。そもそも、浅石晴世が旧制福岡高校に十二回生として1933年に入学し、十四回生として1938年に卒業したとすれば、大学入学は1938年であり大学卒業は1941年ということになってしまう。浅石晴世は1940年に大学を卒業して中央公論社に入社しているのであるから、整合性が取れないのである。浅石晴世は旧制福岡高校に大西巨人と同じく1933年に十二回生として入学しており、卒業は1937年3月であるから十三回生として卒業したということである。大西巨人は浅石晴世が二度の休学で卒業が通常より二年遅れたと証言しているが、実際には通常より一年遅れて卒業したのである。
*8:http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2958378/7
*9:http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2959581/11